ネットアセットアプローチは、株式評価を実施する際の評価アプローチの1つである。コストアプローチ(Cost approach)と呼ばれることもあるが、企業価値評価ガイドライン(日本公認会計士協会経営研究調査会研究報告第32号)では、株式等の価値を評価する際には、純資産額(ネットアセット)に基づいた評価アプローチであることを明確にするためにネットアセットアプローチと命名している。
ネットアセットアプローチは評価対象企業の貸借対照表に基づいた株式評価手法である。貸借対照表には、資産-負債=純資産額が表示されており、純資産額は株主の持分である。従って、ある一時点における株主が保有する財産の価値を示す指標としてネットアセットアプローチが有用である。
ネットアセットアプローチは静的な評価アプローチであることが特徴である。従って、対象企業が獲得する将来キャッシュフローが評価に取り込まれていないという欠点を有する。換言すれば、ゴーイングコンサーンとしての企業価値を計算しているものではない。しかしながら、法的整理を実施する場合の清算価値(liquidation value)を計算しているものでもない。清算価値は事業継続を停止し仮に清算をする場合の評価手法であり、一般的なネットアセットアプローチに比較しても、大幅に減価する価値が計算される。
ネットアセットアプローチで評価される株主価値は、貸借対照表における株主資本に以下のような調整を実施することで計算される:
1.貸借対照表における株主資本(A)
2.加算項目(B)
不動産の含み益
オフバランスの節税保険の時価
時価評価されていない投資有価証券の含み益
3.減産項目(C)
引当金不足
投資等含み損
遊休固定資産の減損未計上
4.修正後株主資本(D=A+B-C)
上記評価を実施する際に多額の含み益がある場合には、その税効果を認識すべきことは要注意である。含み益を実現させる場合には、税の流出が不可避であるため、税効果を認識しないと株主価値が過大に計上されることになるためである。
ネットアセットアプローチはREITのような不動産保有会社、投資有価証券保有会社、純粋持株会社などに適合する評価である。